issues(旧LobiLobii)創業に至るまでの905日間の試行錯誤について

廣田達宣@issues運営
17 min readNov 22, 2018

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2018年の夏、僕は株式会社LobiLobiという会社を立ち上げ、政策×テクノロジー領域の事業をやりはじめました。

この事業が本当にうまくいくのかを検証するため、東京・武蔵野市にて「おむつ持ち帰り問題」をテーマにした政策提言キャンペーンをサポート。

実際のキャンペーンサイトはこちら

このキャンペーンでは、武蔵野市民を中心に70名以上の有権者の声を市長さんや市議さん達に届け、政策の実現を要望。

結果、当該の政策は来春から実現する見込みだそうです。(当該の政策を進めて下さった市長・市議の皆さん、本当にありがとうございます!)

くわしくはこちら

この記事は、創業までの905日間(長い!)に経験した様々な試行錯誤をまとめたものです。

僕たちの歴史を共有し、一人でも多くの方を「応援団」として巻き込んでいきたい。そう思ってこの記事を書きました。

1回目の起業は教育系ITスタートアップ

学生時代、僕は慶應大学で経済学を学びながら「アイセック」という海外インターン事業を運営するNPOでの活動に没頭していました。

そして卒業の少し前に(株)マナボという教育系のスタートアップを共同創業し、取締役に就任。

そこでは累計6億円を調達して赤字を掘りまくったり、途中で役員をクビになったりと、波瀾万丈な5年間を過ごしました。

最終的に同社は駿台グループに売却しました。詳しくはこちら

きっかけは「日本死ね」

ターニングポイントはLobiLobi創業の905日前、2016/2/15。はてな匿名ダイアリーのある記事が大きな話題になりました。

国会質問で取り上げられるなどしました

これを読んだ時、僕はバリキャリな妻にプロポーズしようか迷っているタイミングでした。

仕事と子育てを人生の二大重要事項として掲げ、なんとかしてどちらも両立させたい。僕らはそんな想いを共有しています。

このまま結婚して子供が出来ても、僕らの人生はハードモードになる。あの記事を読んでそう直感しました。

それならば、自分自身で子育て支援の事業に取り組み、(未来の)自分たちの課題を解決したい。そういう生き方をしたい。

そんな風に思って、子育て支援分野での2度目の起業とプロポーズを決意しました。

しかしその領域は全くの未経験。「1年だけ勉強させて下さい」と、結婚と同時に保育のNPOフローレンスに転職しました。

このあたりの詳しい経緯はこちら

最初の事業アイディア

2017年3月のフローレンス 入社当時に描いていた事業案はこうです。当時は「じじばば保育園(仮)」と呼んでいました。

  1. 待機児童問題の最大のボトルネックは認可保育所の収入の8割を占める補助金の総額が増やせない事
  2. 年金生活の高齢者に自宅で小さな保育所を運営してもらえば、年金があるぶん補助金なしでも認可園並みの利用料の保育園が運営できるのでは
  3. そうすれば補助金なしに保育の受け皿を劇的に増やし待機児童問題を解決できるはず
当時ざくっと作った事業計画書より

いま見ると、現場を何も知らない素人が妄想ベースで描いた独りよがりの駄目アイディアですね。もはや黒歴史。

最初の大規模ピボット

この仮説は、フローレンス入社の2週間後、同社の運営する保育園での実習初日にあっさり崩れ去りました。

保育士って超絶重労働じゃないか。僕のじいちゃん・ばあちゃんが60代だった頃でも、こんな大変な仕事をやれるイメージは全く湧かないぞ。

他にも色々ありますが、一番大きな理由をわかりやすく言えばこういうことです。

元野球部でそれなりに体力に自信のあった当時28歳の僕ですら、8時間の勤務後には腰痛と気疲れにぐったりでした。

あっさりと仮説を棄却された僕は、社内の信頼を勝ち得る為にも、ひとまず目の前の仕事に打ち込む事に。

「こども宅食」という官民連携事業で、立ち上げ時のクラウドファンディングを担当しました。

クラウドファンディングでは最終的に8,000万円以上のご寄付を頂きました!

政・官・民が連携するとこれほど意義深い事業ができるのか、と知った原体験でもあります。

「急な残業に当日予約で100%対応のお迎え&預かり」モデルを立案

こども宅食で一定の成果を出し、余裕が出てきた2017年8月頃、保育園パパ・ママへのユーザーインタビューを開始。

その中で出てきた課題を元に、それを解決できるサービスの事業化を検討しました。

そのうちの1つ、複数人から「困っている」という声を聞いたのが、職場での突発的なトラブル対応に関する悩みです。

これにより、キャリア上のチャレンジがしづらくなっていると言うのです。

激務カップルの自分たちにとっても、これはもしかして近い未来に直面する課題なのかもしれない。

そう思って調べてみると、どうやらこれは既存の保育サービスでは解決できない課題のようでした。

そんな経緯で「急な残業に当日予約で100%対応のお迎え&預かり」というサービスを立案するに至ったのです。

当時作っていたリーンキャンバス

なるべく実装せず仮説検証

マナボ時代の反省から、なるべく実装をせずに事業の仮説検証をしよう、ということを徹底しました。

顧客ニーズ

顧客を理解しニーズを探るため、働くお母さんを中心にユーザーインタビューを何十人も重ねました。

最初は具体的な解決策については一切触れず、課題の有無やそれを現在どのように解決しているか等をひたすらヒアリング。

こんなメモが何百枚も溜まりました

課題がありそうな事がわかった後は、striking.lyというHP作成サービスを使って1時間くらいで試作ページを作成。

それを働くお母さん達に見せ「気になる点や不安な点」をひたすら洗い出し、小さく修正を重ねて潰していきました。

実際の試作ページ

供給オペレーション

当初は高齢者宅の一室を施設として提供してもらい、若手の保育スタッフとタッグを組んで預かるモデルを考えていました。

しかし、資格を取りフローレンスが運営する一時保育所でいち保育士として2ヶ月働いてみた所、集団一時保育に特有の難しさを痛感。

子ども達からは「たつ先生」と呼ばれていました

東京都の規制などの兼ね合いもあり、ベビーシッター型での運営に小さくピボットしました。

そして、シッターとして働いてくださりそうな女子大生や主婦の方たち十数人へのヒアリングを並行して実施しました。

財務構造

このビジネスがうまく回った場合「当日予約で100%対応のフローレンスの病児保育」と財務構造が近くなります。

実は病児保育業界は構造的に赤字ばかりなのですが、フローレンスの病児保育は収益性が高く単体黒字化を実現しています。

フローレンスは全事業合わせて純利率約10%の優良事業者です。詳細はこちら

社内で共有されていた財務指標を踏まえて検討しても「病児保育よりもリスクが低いこの事業なら更に高い利益率を確保できるはず」と見込んでいました。

二回目の大規模ピボット

約束の1年が経ち、フローレンス退職時には「当日予約で100%対応のお迎え&預かり保育サービスをやります!」と宣言。

その時の退職ブログはこちら

しかしその後、保育園ママさんへのインタビュー実施が累計30–40人に迫る頃に、大きな壁にぶち当たりました。

チラホラと「3年前ならこのサービス欲しかったけど、今は要らないかな…」という声が聞こえてきたんです。

彼女たちの共通点は、リクルートグループで働くママさん達であるということ。

同社は元々のモーレツ長時間労働の文化から、ここ数年で一気に働き方を改善しています。

そこに、2回目のピボットを決意させるに足る大きなヒントがありました。

ターゲット市場に関する当初の仮説

これまで、キャリア志向の高い人たちは毎晩遅くまで残業しないと出世できない世の中だった。

しかし昨今の働き方改革により、キャリア志向の高い人でも普段は定時帰りで残業は必要な時だけ、という世の中に変わっていく。

そうなると、必要な時の残業さえカバーできれば保育園ママでも仕事で活躍できるはず。

だからこのサービス・市場は今はニッチだけれど、時代の変化と共に伸びる!

これ、ぱっと聞くとそれっぽいじゃないですか。

今は小さいが時代の流れと共に拡大していく市場というのは、スタートアップが狙うのに最適です。

僕も当初は確からしい仮説だなと思っていたんです。しかし…

ヒアリングを通して発見したこと

働き方改革においては、働く時間の総量を少なくするのみならず、働く時間帯や場所の柔軟性も大きな要素。

突然のトラブルがあっても、お迎えの間だけ誰かに仕事を代わってもらえさえすれば、夜間に在宅でトラブル対応はできる。

だから実は、働き方改革の浸透と共にこのサービスのニーズは縮小していく。

これがユーザーインタビューを通して見えてきた真実でした。

ピボットを決意

実は初期のヒアリング対象の多くは、昔ながらの大手企業のママさん達でした。だから働き方が古く、課題があった。

しかし働き方改革の先行している会社では、リモートワークとフレックス制により、既にこの課題は解決されていた。

ただでさえニッチな市場が、働き方改革の浸透と共にますます小さくなっていく。その様子が目に浮かぶようでした。

この先は進んでもどこかで行き止まり。そう思い、再び大規模にピボットすることにしたのです。

政策×テクノロジー領域への方向転換のきっかけ

さて、ピボットして何をやろうか。検討を進める中で最初のヒントになったのは、こんなFacebookの投稿でした。

元の投稿はこちら

これ、ちょっとおもしろいなと思ったんです。

そこである都議の都政報告会に突撃して、こういうのって実際どれくらい効果あるんですか?と質疑応答の時間に聞いてました。

すると、こういったメールが5通も来れば「すごい事が起きている」とかなりのインパクトとのこと。

翌日にはその内容がこんなブログ記事になっていました

実は在職中、僕はロビイングを軸としたフローレンスの戦略の秀逸さに感銘を受け、それを紹介する記事を書きました。

その中で紹介している「社会変革のトライアングル」を実践しているのがまさにこのポストであるとも言えます。

詳しくはこちら

そして先の駒崎のポストには、いいね約500件、シェア約50件がついており、かなりの人数にリーチしています。

しかしコメント欄をみると「実際にやりましたよ!」と書いているのはたったの1人。

駒崎のこのポストを見た保育園ママさん達へのヒアリングをしていくと、次のようなハードルがあるようでした。

一方で同じ駒崎が賛同者としてchange.orgというオンライン署名サイトで展開した受動喫煙防止推進キャンペーンでは、1万人以上の署名を集めています。

優れたユーザー体験のプロダクトを作れば、この1万倍の差を埋められるのではないか。それが発想のきっかけでした。

そういえば…

これまで聞いた保育園ママさん達の様々な困り事の中にも「政策・行政を変えねば解決できない困り事」が沢山ありました。

一例を出すとこんな感じです。

  • 認可保育園に入れない(もしくは入れても自宅から遠い、兄弟で別の園など)
  • 待機児童になり職場復帰するため一時保育を使い始めたのだが、毎月第1月曜に朝から2時間並んで予約しないといけない(予約状況の確認はスマホで出来るのになぜ!)
  • 入園できたものの、フリーランスになったり第二子を妊娠したら点数調整の関係で退園しろと言われてどうしようか途方にくれている

こういった困り事に直面した保護者の多くは、まずは最初に園の先生たちに相談します。

しかし認可園の収入の約8割は補助金で、行政のルールに従って運営されており、園の一存では変えられない事も多い。「役所に相談しないと…」と言われます。

そこで役所の保育課に相談しにいくのですが、行政は基本的に既存の制度に則り業務執行をする立場。「そういうルールなので…」で止まってしまいます。

本当はルールを作る立場の政治家に対し、同じ課題に悩むママ友・パパ友(=有権者)の声を集めて要望すれば変えられる(かもしれない)。

けれどそのやり方を知らず、またやるにしても最適化されたツールがないので尋常でない工数とエネルギーが必要となりハードルが高すぎる。

そのうち子供が大きくなると課題の当事者ではなくなり「変えたい」という気持ちがなくなってしまう。そして同じ課題がそのまま次の世代に引き継がれる…

それこそが冒頭の「日本死ね」の裏で起きてきた事であり、僕たち夫婦がこれから直面するであろう壁でもあるんだろう、と気づきました。

子育て支援の政策を変えていく仕組みを作れば、未来の自分たち夫婦の課題をより根本的に解決出来るのではないか。

そう思ってこの領域へのピボットを決意しました。

根っこにあるものは同じです

ひたすらヒアリング&周辺知識のインプット

今回も作らずに仮説検証を行う為、まずは最初の気付きを元にリーンキャンパスをざくっと作成しました。

そしてロビイスト20–30人、政治家&秘書40–50人、行政職員5–6人にヒアリングして仮説を検証。

また政治・政策提言などの書籍を数十冊買いまくり、勉強会などに片っ端から参加してマーケットへの理解を深めました(追記:2019年4月の統一地方選挙と参院選では与野党の合計15陣営で数十時間の選挙ボランティアに従事し、現場を学びました)。

出来る限り実装せずに仮説検証を進めました

実は同じような活動をしている人たちは沢山いた

そして見えてきたことがあります。それは、構造的に同じような事をしている人達は、フローレンスや駒崎に限らず昔から沢山いたのだということです。

利害が共通する人々の声を取りまとめ、政治家の方々に意見を届ける事で、自分たちの望む政策を実現していく。

経団連・日本医師会・農協・宗教団体・労働組合・市民活動などなど、例を出せばキリがありません。

昔からオフラインで行われていた営みを時代に合わせてアップデートする。そう考えると利用してもらえるイメージが湧いてきました。

“Software is eating the world.” の波は政治の世界にもやってくる

そもそも日本のGDPざっくり500兆円のうち、100兆円以上が公的部門による支出です。その使途を決める政治産業の規模も当然大きくて、竹中平蔵さんは約6兆円と試算しています。

インターネットの世界には “Software is eating the world.” という有名な格言がありますが、その波は政治の世界にも必ずやってきます。現に米国では2008年の大統領選挙から政治×テクノロジーには巨額の資金が流れ込み、一大産業となっている。

日本でも、有権者や議員の年齢構成、また2013年のネット選挙解禁から年月が経ち各陣営に溜まったノウハウなどを鑑みるに、これから10年間のどこかで一気に爆発するタイミングが来ることは間違いありません。

いつ来るかはわからないけれど、波が来た時に沖にいられるようにしよう。そうすればとてつもなく面白いチャレンジができそうだぞ。そう考えるようになりました。

MVPの実装プロセス

そんな事を考えているうちにヒアリングによる仮説検証をやりきったので、次はMVPを実装して市場にあててみようと決意しました。

実装にあたってはまず、2–3週間で12–13回くらい下記のようなプロセスを回して、プロトタイプを作りました。

  1. 平日夜に2–3時間ほど、メンバーと一緒に実際には動かない静的ページをさくっと実装
  2. 協力してくれる保育園ママさんにランチがてらユーザビリティテストを実施させてもらい動画で撮影
  3. 次の打ち合わせの時にメンバーと一緒に動画を見ながら問題点を洗い出し
  4. その場で改善のための実装案をホワイトボードに書き出しながら検討
  5. 最初に戻る

そうして作ったプロトタイプを持って政策提言の勉強会に参加し、冒頭の保育園使用済みおむつ持ち帰り問題を変えたいという問題意識を持っている方を口説き落とし、第1弾の政策提言キャンペーンのオーナーになって頂く事に。

それからサーバーサイドを(後で捨て去る前提で素早く&汚く)実装し、動くシステムを構築。

並行して顧問弁護士の方にお願いして利用規約やプライバシーポリシーを用意。契約主体として必要だったので法人を設立し、創業に至りました。

実際のキャンペーンサイトはこちら

第1弾キャンペーンを終えて

東京・武蔵野市での第1弾キャンペーンでは、要望していた「おむつの園内廃棄」が2019年春から実現見込みと、市政関係者の皆さんのご尽力のおかげで良い形で着地できました。

色々と手探りで進めた事から様々なゴタゴタも経験しましたが、結果的にそれらも市場を理解する上での良い学びになったと思います。

詳しくはこちら

これから

とはいえ、現状のサービスの仕組みで本当に事業として成長させられるのか、という点についてはまだ確信がありません。

当面は「この形なら行ける!」という確信を得られるまで、引き続き様々な試行錯誤を繰り返していこうと思っています。

そんな感じで、廣田は元気にやっています。今後も応援していただけるとうれしいです!

追記:2019年3月よりサービス名をissuesに変更してサービスリリース、また創業メンバーと共にフルタイムになりました!issuesについて詳しくは「投票でもデモでもない、新しい政治参加の仕方。テクノロジーで社会を変える「issues」の挑戦」の記事をご覧ください。

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廣田達宣@issues運営

慶應経済→スマホ家庭教師manabo(取締役として共同創業 / 駿台グループに売却)→フローレンス(保育士 / 文京区子育て支援課と共にこども宅食立ち上げ)→issues https://the-issues.jp 創業。身内に官僚がおり、半ばプライベートで官僚の働き方改革ロビーに取り組んでいます。